2020年2月 16日正午、福岡市・中洲。飲食ビルに入るスナック店内は、食欲をそそる甘酸っぱい香りが漂っていた。カウンター越しにエプロン姿の女性から声を掛けられた。「ランチはあんかけチャーハンです」
スナック「フラフラ/ミミィ」は1月18日からランチ営業を始めた。ホステスが調理したカレーや牛丼、おでんを出す。ママの中川ゆうみさん(42)は「女の子が毎日働ける場をつくりたかった」と話す。
前回の宣言時は、県の休業要請を受け入れた。収入がなくなる従業員は、生活への不安から涙を流したという。今回の時短要請では、酒類提供は午後7時まで。ピークが午後10時以降のスナックにとって「休業要請と変わらない」。周りの店が休む中、考えたのがランチ営業だった。
昼に客が来てくれるか不安だったが、「今は夜より来やすい」と話す常連は少なくない。毎日のように訪れる人や、食材を差し入れてくれる人もいる。「人の優しさに触れた。挑戦して良かった」と、この1カ月を振り返る。
時短要請は「仕方ない」と思うが、高い家賃と従業員4人を抱え、1日6万円の協力金では足りない。昨年4月には、二つあった店の一つを閉めた。「一日も早く通常営業がしたい」と切に願う。
取引業者も耐える日が続く。筑豊地区の居酒屋やバーに貸しおしぼりを納入する野見山クリーンサービス(飯塚市)は、1月分の集金がほぼできていない。取引店の8割が休業しており、請求書をポストに入れても反応は鈍い。
「何か方策はないかと考えても、どうにも動きようがない」。野見山宰社長(40)はため息をついた。新規顧客を開拓しようにも、コロナ禍では思うようにいかない。昨年の売り上げは前年の7割まで落ち込んだ。従業員約15人の雇用を守るため、やむを得ず工場の稼働を通常の週5日から2日に抑えている。
従業員は先代社長の父親の代から勤める60、70代が多い。「私がランドセルを背負っていた頃からかわいがってくれた、おいちゃんやおばちゃん。その生活を奪うわけにはいかない」
どん底にあって地域の温かみを感じることもあった。集金に苦労する中、顔なじみの店長は「困ったときはお互いさま。お宅がないとうちは成り立たん」と快く支払ってくれた。
国からの飲食店の取引先への一時金60万円で諸経費は賄えない。要請が明けても、需要が回復するかは見通せない。それでも「従業員のためにも前を向くしかない」と歯を食いしばる。