「しばらくは大型買収はしない」と公言していた孫社長。前言を翻すのは毎度のことだが、今月に入って国内携帯4位のイー・アクセスの完全子会社化を決めた直後の巨額な“買い物”に業界は驚いている。
スプリントとメトロPCSの契約者合計数は約6500万件。ソフトバンクとイー・アクセスの合計が約3400万件だから、買収が成功すれば約1億件に達し、売上高は約6兆円になる。巨大化することで米アップルのiPhone(アイフォーン)など携帯電話の調達やインフラ投資などでスケールメリットが期待できるという。
しかし、バラ色のシナリオの裏には米通信業界の複雑な事情も垣間見える。今月に入ってドイツテレコム傘下で米4位のTモバイルUSAがメトロPCSの買収で合意したと発表、これに対して、スプリントも対抗買収に意欲を見せていた。
だがスプリントの契約数は現在5600万件。1億件前後のベライゾン・ワイヤレス(1位)とAT&T(2位)に大きく引き離されているほか、高速通信「LTE」の基地局への投資などの負担が重なり、5期連続の最終赤字を計上している。
そうした状況で出てきたのがソフトバンク。「スプリント側のスポンサーという形で通信業界の買収合戦に巻き込まれた」(通信担当アナリスト)との見方もある。
それでも、これまで巨額の買い物を成功させてきた孫社長がスプリントの買収に踏み切る可能性は高い。孫社長は2004年に日本テレコムの株式を取得して固定電話事業に参入。05年には福岡ダイエーホークス(現福岡ソフトバンクホークス)の株式を取得して子会社化した。そして06年には英ボーダフォングループ日本法人を1兆6600億円で買収し携帯事業に参入。その後の6年で累計契約数をほぼ2倍の3000万件以上に伸ばす成功を収めた。
ただ、今回の買収費用は2兆円超と予想され、日本企業の海外企業買収としても過去最大規模となる可能性がある。ボーダフォン日本法人買収で約2兆4000億円あった純有利子負債は約8000億円まで減少したが、また借金生活に逆戻りとなりかねない。
さらに、「電波がつながらない」という汚名を返上するため、国内基地局の整備などを宣言した孫社長だが、大借金が通信状況改善にストップをかけるのではないかとの懸念も残る。
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