温泉施設などを運営するかつらぎ町の「野半(のはん)の里」が経営破綻し、温泉掘削資金などとして個人から集めた出資金が約10億円に上っていることが関係者への取材で分かった。代理人弁護士によると、出資者は同県や大阪、奈良県などの約500人という。
東京商工リサーチ和歌山支店によると、同社は温泉浴・健康施設「蔵乃湯」や温泉を活用したアトピー性皮膚炎のケア施設などを運営。98年には年商が4億4000万円あったが、資金繰りが悪化し今年8月末に破産を申し立てた。負債総額は約14億円とみられ、利用客などから出資を募っていたという。
県内の男性は温泉施設に張られた勧誘ポスターを見て出資した。温泉掘削資金などとして1口100万円で募っており、1口あたり250回分の無料入浴券が交付されるという内容。3年後に出資金が全額返還され、未使用分の入浴券が1枚800円で買い取られることになっていた。満期後、再度出資すれば“利率”が上がったという。男性は突然の破綻に「経営状況の開示を求めても応じてもらえなかった」と不満をあらわにする。
代理人弁護士は「資産の売却などで返還していきたい」としている。
東京商工リサーチ和歌山支店によると、野半の里は1789年創業。酒造業を営んでいたが、96年以降、清酒製造を続けながら酒蔵を利用した飲酒店運営や地ビール製造も手がけた。00年に野半の里に商号を変更していた。
「定期預金よりお得」
大阪府の自営業の男性は友人の話を聞いて05年に1口100万円で出資した。「銀行の定期預金よりお得だし、友人もちゃんと利息をもらえていた」。3年後、交付を受けていた入浴券200枚が1枚650円で買い戻され、計13万円を得た。それと同時期に「今後は入浴券を1枚800円にします」という趣旨の手紙が届き、計300万円を出資した。
その後もアトピーのケア施設を作るなどとしてファンドへの投資を呼びかける封書がきて、出資に応じた。しかし、次第に連絡が途絶えがちになり、今年8月31日付で突然、破産手続きに入ったとの通知が届いたという。
かつらぎ町の同社の温泉施設は現在、閉鎖中。立ち寄った男性(42)は「泉質もいい感じで、これからもっと利用しようと思っていたのに」と残念そうに話していた。
編集後記
1789年(天明8年)創業の老舗酒造メーカーだったのですが、日本酒の売上が減少し、地ビールに手を出したが思ったように業績が上がらず、温泉施設の運営にまで手を広げたのです。
最初は実業だったのでしょうが、資金繰りがうまく回らず、いつの間にか虚業になり、ついには詐欺にまで発展しそうですね。
出資金10億円を集めたようですが、配当金などで野半の里が実際に使えたお金がどの程度であったか不明です。自転車操業のために途中で消えたお金もあるのではないでしょうか。