シャープが大規模な人員削減の検討に入ったのは、12年3月期の過去最大の連結最終(当期)赤字に続き、12年4〜6月期の連結最終赤字も1000億円前後と想定以上に膨らむ見通しになり、抜本的な構造改革が急務になったためだ。シャープにとって従業員の雇用は創業以来守り続けてきた“聖域”だが、創業100周年の節目となる今年、過去と決別し、早急に収益改善の道筋を付けるべきだと判断したとみられる。
シャープは1950年、連合国軍総司令部(GHQ)によるインフレ対策を含めた緊縮財政措置(ドッジ・ライン)による「ドッジ不況」時に、資金繰りに窮した。「現状の売り上げで会社を維持するには210人削減する必要がある」と迫る銀行側に、創業者の早川徳次氏(当時社長)は「人員整理するぐらいなら、会社を解散した方がいい」と雇用維持を優先する考えを社員に伝えると、「会社を倒すな」との声が起こり、約210人が自主的に退職を申し出たという。それ以降、シャープ内では「従業員の雇用に手を付けない」風土が育ち、IT不況で01年に松下電器産業(現パナソニック)が約1万3000人を削減しても、08年のリーマン・ショックで上場以来初の赤字を計上しても、従業員の雇用だけは守り通した。
しかし、創業100周年の今年は、最も逆風が吹き付ける年になった。12年3月期に3760億円の過去最大の最終赤字を計上した財務の傷みを解消すべく、台湾の電子機器受託製造サービス(EMS)最大手、鴻海(ホンハイ)精密工業グループに出資を仰ぐことになったが、具体的な提携効果は十分示されていない。
今年4月の12年3月期の決算発表時に発表した2000人の成長事業への配置転換についても、金融機関からは「風土を大事にするあまり、人員削減を盛り込まなくても危機を脱することができる、との思いがあったのでは」との指摘も出ていた。【宮崎泰宏、宇都宮裕一】
電機各社リストラ加速
主力の薄型テレビの低迷などから、12年3月期に巨額の赤字を計上した電機各社は、人員削減を含む大規模なリストラに取り組んでいる。ソニーは今年4月、今年度中にグループ全体の6%に当たる国内外の1万人を削減すると発表した。パナソニックも今年3月までに約3万5000人削減し、グループ従業員を35万人以下とした。またパナソニックは今年度中をメドに、本社従業員約7000人を、配置転換や希望退職によって現在の7分の1以下の数百人規模にまで絞り込む方針だ。
NECは今年度上半期中に国内外で計1万人規模の人員削減を進める。NECが対象とする1万人のうち正社員は半分の5000人で、グループ全体の正社員11万3000人の4%強にあたる。
一方、経営難に陥っている半導体大手のルネサスエレクトロニクスは、国内19工場のうち11カ所の閉鎖・売却を柱としたリストラ計画を今月3日に発表した。五千数百人規模の希望退職募集にも着手しており、最終的な人員削減規模は、全従業員の4分の1程度にあたる1万人超となる見通しだ。