ロンドン五輪が間近に迫った7月中旬。大阪市内の家電量販店のテレビ売り場には、50〜60型の大画面テレビが並び、開会式までの日数をカウントするパネルなども掲示されていた。
しかし、来店客はまばらで、店員も「五輪でテレビが売れるという時代は終わったのかも」とため息をつく。同店では、前回の北京五輪(2008年)前よりもテレビの展示台数は大幅に減らしている。
電子情報技術産業協会によると、今年5月の薄型テレビの出荷台数は前年同月比74.6%減の40万9千台。昨年3月の家電エコポイント制度の終了、同7月のアナログ放送終了前の駆け込み需要の反動で需要は低迷し続けている。
通常より1.3倍のテレビの販売が見込める−。この五輪開催イヤーの経験則が「今年は当てはまらない」とシャープの担当者は、厳しい表情をみせる。
なぜなのか? 薄型テレビの国内普及率が今年3月末時点で92%(内閣府)に達し、完全な飽和市場となっているとともに、映像はテレビで見るというスタイルそのものが崩れつつあるためだ。
10〜30代を中心にインターネット経由でスマートフォン(高機能携帯電話)やタブレット端末などでスポーツを観戦する人が急増する中、ロンドン五輪でもNHKが一部の競技の生中継をスマホに配信する無料サービスを実施する。
さらに、国際オリンピック委員会(IOC)が人気選手のフェイスブックなどにつながる専用サイトを開設。過去の五輪ではソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の文化が十分に浸透していなかったが、「ロンドン五輪では、だれもがSNSを駆使する」という声もあり、既存メディアには脅威だ。
シャープなど家電メーカーは放送とネットを融合させた「スマートテレビ」を前面に打ち出し、需要の掘り起こしに懸命だが、「テレビ人口の減少をどこまで抑えられるかは全く分からない」(証券アナリスト)と逆風は収まらない。
「多額のスポンサー料金を支払ってまで契約を続ける意味があるのか」
日本企業唯一の五輪最上位スポンサーであるパナソニックの関係者は、冬・夏季の2大会で70億〜120億円程度ともいわれる高額な契約料に対し、こんな不満をもらす。
1988年のカルガリー冬季大会から一貫して契約し、音響・映像(AV)機器などについて、自社製品の宣伝に五輪のロゴを使用できるなどの「特権」が与えられてきた。しかし、テレビ市場が不調な今、うま味が小さいどころか、“重荷”となる恐れすらある。
パナソニックはロンドン五輪で放送用の3D(3次元)カメラなどをオリンピック放送機構に納入し、五輪初となる3D映像の配信を支援。伸び悩む3Dテレビだが、「迫力あるシーンを好む欧米では受け入れられる余地はある」(同社関係者)と期待を寄せる。
また、103型の巨大プラズマディスプレーもロンドン五輪の組織委員会に計47台納入し、競技会場や選手村などに設置される。五輪で採用されると、製品価値が上がり「他の国際的なスポーツ競技団体からの発注も期待できる」。
前期は過去最悪の赤字を計上するなど経営不振に陥っているパナソニック。通常のビジネスでは一般消費者のみではなく、企業や自治体などを獲得する方針に転じつつあり、五輪商戦でも同様に企業や自治体、スポーツ団体などをターゲットにしはじめた。
「五輪ビジネスも一般消費者にモノを売るだけでは成り立たない」。同社関係者はこうつぶやいた。
ロンドン五輪開幕まで秒読み段階に入ったが、関連商品の特需が見当たらず、「今季の五輪はもうからない」との声も聞こえてくる。五輪商戦は転換期を迎えたのか。
編集後記
強い会社には、仕事を楽しくする「仕組み」がある。8つの企業の「職場の秘密」。
【送料無料】バイトでも億稼ぐ不況なのに元気のいい会社絶好調企業の「人の動かし方」の秘密を探る。
セブンイレブンのバイトはなぜ3カ月で経営を語るようになるのか?
ディズニーランドのキャストはバイトなのになぜ一流のおもてなしが可能なのか?
なぜリクルートのバイトは1カ月で経営者に会えるようになるのか?
カクヤスのドライバーはなぜ配達後に仲間の助っ人に向かうのか?
109のバイト店員はなぜ月五〇〇万円超も売ることが可能なのか?
松戸の新聞配達員はなぜお客さまに感謝されて34億円も売上げられるのか?
なぜ製鉄会社が日本初の金融工学システムを作り出せたのか?
ローソン尾山台駅北店のおでんはなぜ日本でトップクラスの売上げなのか?